南イタリアの手縫い文化を継承する。美しく気品のあるナポリシャツ

一時代を築いたナポリシャツですが、年々衰退の一途をたどっており、工場に生地が入って製品となって同じ工場から出荷するまでを一貫して行っているファクトリーは数えるほどになってしまいました。そんな中にあって、南イタリアの手縫い文化を継承し、当時と変わらないシャツ作りを貫いているのが、1953年に設立されたイタリア・ナポリの老舗カミチェリア「Maria Santangelo（マリアサンタンジェロ）」です。当初は有名メゾンの下請けファクトリーでしたが、近年オリジナルブランドを強化しており、ハンドワークを駆使した美しく着心地の良いシャツが世界中で高い評価を得ています。有名メゾンのOEMで培ってきた技術力は確かなものがあり、美しい襟やカフスなどに見られる柔らかな曲線、運針の細かさ、完璧な柄合わせなど、細部にわたって細やかな仕事が見られ、その着心地の良さは一度着用すると忘れられなくなるほどです。

創業者でありカリスマシャツ職人でもあるマリア女史は、祖母の代からシャツ作りに携わっており、忠実にその伝統を守っている一人です。70歳を過ぎてなおメガネもかけず、大型の機械に頼らず生地をカットするその姿は惚れ惚れするほど。その技術を受け継いだ子供たちと約30名の職人によって運営されている、ナポリシャツ最後の砦とも言える稀有なブランドです。

和らぎと品性が同居する。リラックスムード溢れるフーデッドシャツ「CAPPUCCIO」

ナポリの老舗カミチェリア、マリアサンタンジェロ。ここ数年ニットやカットソーに押され気味だったシャツですが、徐々に復活の兆しを見せており、新たなシャツブランドを探していたところ、私のバイヤー人生の中でボレッリ、フィナモレ以来の衝撃となるこのブランドに出会いました。熟練したシャツ職人の手仕事が施された所謂ナポリシャツなのですが、ボレッリやバルバ、フィナモレといった既存ブランドとは違い、創業者が女性ということもあってラテンな色気は控えめで、どこか繊細で品のある色気が漂っています。作りも実に丁寧で、運針の細かさはもとより、ハンド箇所にもムラが無く女性ならではの気配りが随所に感じられます。仕入れの際、マリア女史の息子で現社長のヴィンチェンツォ氏と話をする機会がありましたが、伝統的なシャツ作りを大切にしていることがひしひしと伝わってきました。ナポレターノはイケイケの御仁が多く正直ちょっと苦手だったのですが、ヴィンチェンツォ氏は物静かで穏やかなところに好感を覚えました（笑）。とにかく作りが良く、見た目や着心地も申し分なく、そのうえ価格も控えめという、今どき珍しい自社一貫体制を貫いているナポリシャツブランドです。この価格帯でこれほどの品質のナポリシャツは他にはないと断言できます。

今回ご紹介するのは、シャツアウターの新モデル「CAPPUCCIO（カプッチョ）」です。イタリア語で“フード”を意味するカプッチョ。その名のとおり、フードの付いたシャツアウターになります。クラシック界では珍しいフード付きシャツですが、モード界では定番となっており、プラダやマルニ、ジルサンダーといったブランドから定期的にリリースされて人気を博しています。

伝統的なシャツ作りを大切にする一方で、トレンドを積極的に取り入れる姿勢を持っているヴィンチェンツォ氏。25S/Sのパリコレでは、ジュンヤワタナベとのコラボレーションで世間をあっと言わせました。ヴィンチェンツォ氏の肝いりで誕生した同モデル。身頃一体型フードがあしらわれたスポーティなデザインでありながら、ナポリの伝統的なシャツ作りにのっとって熟練した職人が手仕事で仕立てているため、現代的な外観とは裏腹にナポリシャツらしさがしっかりと感じられます。フードを二重に仕立てて立体感を出し、柔らかくも凛とした表情に仕上げているあたりは流石です。少し大きめのホーンボタンや、丸みを帯びた両腰のパッチポケット、蹴回し（裾回り）を軽く見せる裾脇スリットなどのディテールも技アリでして、洒脱な雰囲気作りに一役買っています。素材には、カシミヤのような上品な風合いと滑らかな肌触りのコットンフランネルを採用。大人が安心して装える高級感が備わっています。

空気をはらんだようなゆったりとしたフィッティングになっているところがミソ。ハイゲージニットやカットソーの上からバサッと羽織るようにお召しいただくと、リラクシーな雰囲気が出てすごくお洒落だと思います。秋から冬、あるいは冬から春といった季節の変わり目にはアウターとして、冬にはインナーとしても使える汎用性の高さも魅力です。こういった手縫いのフード付きシャツは他にはないと思いますので、気になる方はぜひ手に入れてください。こなれた価格もうれしいですね。

手縫い箇所は、全部で3箇所（袖付け、ボタン付け、スリットのカンヌキ）です。熟練したシャツ職人の手縫いによるたっぷりとイセ込んだ肩と、身頃に対して袖が自然に前に出るように縫い付けられた後付け袖は、ハンドメイドでしか実現できない特別なディテールです。これらによって腕の可動域が自然な形で確保されているため、ちょっとびっくりするくらい着心地が良く、また胸や脇下に不自然なシワが寄らず美しさが際立って見えます。ナポリシャツ特有のザンパテグリアートと呼ばれる鳥足ボタン付けも見逃せないポイントです。

これぞ上質！繊細な起毛感で温もり溢れる中厚コットンフランネル「DAVOS」

使用されている生地は、繊維が細くて長い超長綿（繊維長35ミリ以上の高級綿）から紡がれた細番手糸を綾織りにした後、ブラッシュド加工を施すことで表面を繊細に起毛させて温かみのある表情に仕上げた、イタリアの老舗シャツ生地メーカーが手掛けるDAVOS（ダボス）という名称の“コットンフランネル”になります。シャツアウターに適した少し厚手のコットンフランネルですが、厚手すぎないのでインナー使いもお手の物です。繊細な起毛によってもたらされるカシミヤのような上品な風合いと滑らかな肌触りが特徴でして、手にした瞬間に品質の高さを実感できると思います。ブラッシュド加工によっていい感じに生地のコシが抜け、独特なやわらかさと肌に馴染むタッチに仕上げられているので、はじめて袖を通したその日からしっくりきます。イタリアならではの柔らかい発色も素晴らしく、なんとも上品な雰囲気があります。もちろん自宅で洗濯（洗濯機で30℃以下の水洗い）可能。ハンガー干しでOKです。